霞ヶ関の地下でUberを叫ぶ

場所の特性を活かして世論を巻き込むUberの広告戦略

 グローバル配車サービスで知られるUberが、2023年7月、東京メトロ霞が関駅に大胆な広告を掲出した。日本ではUber EATSの宅配サービスが馴染み深いUberであるが、世界規模ではタクシー配車サービスとして利用されている。アプリで乗車地点と目的地を指定すれば、簡単にタクシーを呼ぶことができ、決済もスムーズに完了する。

 今回の広告は、インバウンド需要の増加を見据え、日本でのUber普及を目指すもの。しかし、その真の狙いは、広告が掲出された場所にあるといえる。霞が関駅は、国土交通省のすぐ近くに位置している。つまり、この広告は国交省の政策決定者へのアピールであると同時に、公共の場で世論を動かそうとする意志の表れでもあるといえるよう。

Uberの利便性を実感したシンガポールと台湾での体験

 筆者自身、7年ほど前に仕事でシンガポールを訪れた際、初めてUberを利用した。普通のタクシーがなかなか捕まらない中、アプリで予め目的地を設定し現在地に向かって来てもらうように入力すると、わずか数分で車が到着。ドライバーに目的地を告げたり、料金の支払いを行ったりする必要はなく、全てクレジットカードで自動的に済ませてくれるため、非常に快適な移動ができた記憶がある。

 その2年後、旅行で訪れた台湾でも、移動のほとんどをUberと地下鉄で賄うことができ、ストレスのない旅行を楽しむことができた。

 一方、日本国内ではまだ海外のようなライドシェアの形が実現できていない。海外から日本を訪れる旅行者にとって、日本国内での移動はとてもストレスフルなものに感じられるかもしれない。

相互評価システムが支えるUberの安全性と快適性

 Uberがここまで安全、安心、快適に運用できている背景には、ドライバーと乗客双方に対する評価システムが機能していることが大きいと考えられる。乗車後、乗客はドライバーのサービスを評価し、ドライバーも乗客のマナーを同様に評価。この相互評価システムにより、質の高いドライバーと乗客が選ばれ、サービスの質が維持されている。

 また、Uberでは乗車前にドライバーの情報や評価を確認できるため、安心して利用でる。一方、問題のある乗客はサービスから排除されることになるため、ドライバーも安全に働くことが可能だ。

 このような仕組みによって、個人ドライバーを中心としたUberのサービスが、世界中で高い信頼を獲得している。

霞が関駅の駅構内広告でUberの存在感をアピール

 Uberは、2023年7月に、東京メトロ霞が関駅の構内にある大型広告スペースをジャックしました。広告には、「日本中をUberの移動で満たしたい」というメッセージが掲げられ、日本でのUber普及への意欲を感じさせる内容となっています。

 霞が関駅は、国土交通省のほか、外務省、財務省、経済産業省など、多くの中央官庁が集まるエリアに位置する。駅の利用者には、これらの省庁で働く公務員や関連企業の職員が多く含まれる。Uberは、こうした政策決定に関わる人々に向けて、直接的にメッセージを発信することを狙ったといえそうだ。

 一方で、駅構内は不特定多数の人々が行き交う公共の場す。つまり、この広告は一般の人々にもUberの存在をアピールし、サービス普及への理解と支持を求める役割も担っているともいえる。

OOHの特性を活かしたUberの挑戦

 Uberの今回の広告は、OOH広告の特性を巧みに活用した事例だ。駅構内という多くの人々が行き交う公共の場に広告を掲出することで、Uberは自社のサービスに対する認知と理解を広く促すことができる。

 また、霞が関駅という立地を選ぶことで、政策決定者への直接的なアピールと、一般の人々への間接的な訴求を同時に行うことに成功している。

 日本では、自家用車でのタクシー営業や相乗りが法律で制限されてるが、Uberはこうした規制の改正も視野に入れながら、社会を変革しようとしている。今回の広告は、そうしたUberqの挑戦を象徴する事例といえる。