2026年6月29日から7月5日までの1週間、渋谷の街に115人のキャラクターが潜みました。『HUNTER×HUNTER』のシリーズ累計1億部突破を記念して、集英社(少年ジャンプ編集部)が仕掛けた「渋谷HUNTER街」です。
公式サイトの呼びかけは「〝絶〟で気配を消して街に潜むキャラクター達」を「君の〝凝〟で見つけ出せ」。絶はオーラを絶って気配を消す技、凝はオーラを目に集めて隠れたものを見抜く技で、どちらも作中の念能力の基本です。キャラクターを探して渋谷を歩き回るファンの方が、この1週間はハンターになった形です。
主人公から敵役まで115人
潜んでいたのは、ゴンやキルア、クラピカ、レオリオといったハンターだけではありません。幻影旅団のメンバー、キメラアントの王メルエムと護衛軍、暗殺一家のゾルディック家、マフィアお抱えの陰獣、王位継承戦を戦うカキン帝国の王子たちまで、敵役や一般人も数多く含まれていました。ゴンの育ての親であるミト、メルエムと軍儀を打ったコムギ、さらには「クロロの手刀を見逃さなかった人」のように名前すらないキャラクターもいます。幻影旅団の団長クロロは、名ゼリフの「オレが許す」を「オレが許す 感謝しろ」に変えて登場しました。


仕組みはシンプルです。キャラクターに添えられたQRコードを読み込むと、壁紙などのデジタル特典が手に入ります。おもしろいのは、参加者の誰か1人が見つければ、そのキャラクターの特典を全員が公式サイトからダウンロードできるようになる点です。期間中に115人すべてが見つかり、公式サイトには「全員発見」の表示が出ました。
キャラクターたちは、作中のセリフをもじった感謝のメッセージを口にしています。大型ボードの「感謝するぜ 読者と出会えたこれまでの全てに!!!」は、メルエムとの戦いでネテロ会長が遺したセリフが元です。7月3日には2年ぶりの新刊となる39巻が発売され、週刊少年ジャンプには約1年半ぶりに最新話が掲載されました。ファンにとっては、待ちに待ったお祭りの1週間だったといえます。

広告枠ではない場所も媒体に
この施策でまず目を引くのは、キャラクターが置かれた場所です。センター街のYYボードやタワーレコード渋谷店の正面ボード、ポスターの連貼りといった、渋谷を代表する広告枠も使っています。そのうえで、MEGAドン・キホーテの水槽、道玄坂の植え込み、紀伊國屋書店のガラス扉、雑居ビルの壁や階段など、ふだんは広告が出ない場所にもキャラクターを潜ませました。シブヤ経済新聞も「普段はあまり広告に使われない場所」への掲出に触れています。植え込みの縁からは「クロロの手刀を見逃さなかった人」が顔を出し、名ゼリフをもじって「おそろしくめでたい広告」とつぶやいていました。




大きな広告枠だけなら、見る人は通りすがりに目に入れるだけです。小さなキャラクターが絶で気配を消すように街の隙間に潜んでいるから、「探す」という行為が生まれます。もともと広告媒体ではなかったスペースまでフルに使うことで、渋谷の街全体がひとつのメディアになりました。
場所の意味を読む楽しさ
置き場所には、作品を知る人ほど楽しめる意味が込められていました。MEGAドン・キホーテの水槽の中にいるのは、海のハンターであるモラウ。道玄坂では、ハンター試験中に土の中で眠っていたイルミが、地面から顔をのぞかせています。O-EASTの壁面にはキメラアントの護衛軍3人が並び、タワーレコードの正面ボードにはクラピカとレオリオが対になって掲出されました。
渋谷マークシティのランタンに並んだウボォーギン、パクノダ、コルトピ、シャルナークは、いずれも作中で命を落とした幻影旅団のメンバーです。その組み合わせに気づいたファンの投稿は大きく拡がり、「鎮魂塔」と呼ぶ声も上がりました。

看板や屋外広告の業界紙も、地面から顔を出すイルミなどを紹介しています。
ファンはキャラクターを見つけるだけでなく、「なぜこの場所に、このメンバーなのか」を読み解いて楽しんでいました。ロケーションそのものがクリエイティブの一部になっていて、場所が持つ意味を借りるOOHならではの表現といえます。
最終日の渋谷を歩く
私も最終日の7月5日の午前中に、渋谷を歩いてみました。道玄坂から宇田川町、タワーレコードの前まで回ると、キャラクターのいる場所の多くで、誰かが足を止めてスマホを向けていました。雑居ビルの階段に置かれた小さなキャラクターも、ビルの角の壁面を縦に使った1枚も、知らなければ通り過ぎてしまう場所です。





大型ボードの前では何人もが立ち止まって見上げ、タワーレコードの正面では、道の反対側からスマホを向ける人が何人もいました。見つける楽しさと、大きなビジュアルに出会う驚きが、ひとつの街の中で組み合わされていました。

SNSでの反響
SNSでは、公式アカウントの告知に加えて、参加者の投稿が大きく拡がりました。「レンタルなんもしない人」が同行を頼まれたときの投稿では、通りがかった配送ドライバーがキャラクターの場所を教えてくれたというエピソードが紹介され、450万回以上表示されています。全キャラクターの場所をまとめたファンの投稿も、300万回を超えて表示されました。アニメでゴンの声を演じた潘めぐみさんも、「#渋谷HUNTER街」を付けて感謝の言葉を投稿しています。
話に出てくるブリオンは、センター街のラーメン店の前にいました。

公式マップはあえてヒントを絞った作りで、自作のマップをつくって攻略するファンも現れました。1人で全員を探すのは大変でも、見つけた人が場所を共有すれば全員が特典を受け取れます。この仕組みが、ファン同士で情報を交わす流れを後押ししたといえそうです。
街がファンのイベント会場に
集英社は2021年にも、渋谷駅で『呪術廻戦』15巻の広告を展開しています。販促会議でこの事例を取り上げた際、同社は狙いを「原作のファンをいかに喜ばせるか」と話していました。渋谷が舞台の「渋谷事変」の名シーンで駅の空間を埋め、ファンが記念撮影に訪れる場所をつくった事例です。
渋谷HUNTER街は、その考え方を駅から街全体へと拡げたものといえます。主人公だけでなく敵役や脇役まで総出で登場させたのも、作品を長く読んできたファンへのサービスでしょう。道や植え込み、店先といったパブリックスペースが1週間だけ、ファンを喜ばせるためのイベント会場になりました。入場料もチケットもなく、渋谷を歩く人なら誰でも参加できる会場です。
街そのものがメディアに
2024年のパリ五輪でルイ・ヴィトンが展開したキャンペーンを販促会議で紹介した際、「都市そのものをメディアとして捉える新たなOOHの可能性」について書きました。渋谷HUNTER街は、街のあらゆる場所を媒体として使い、そこに作品の意味を重ねることで、同じ可能性を別のかたちで見せてくれました。
広告枠を買うだけでなく、街にどう入り込むかを考える。OOHのプランニングは、そうした設計にまで拡がっていくのかもしれません。
参照元
- 集英社「HUNTER×HUNTER 累計1億部突破記念 特設サイト」
- シブヤ経済新聞「渋谷の街なかに「ハンター×ハンター」キャラ115人 累計1億部突破記念で」(2026年7月1日)
- 渋谷新聞「渋谷が“ハンター試験会場”に!? HUNTER×HUNTER 1億部突破記念、115人のキャラクターが街に潜伏」(2026年7月29日)
- 販促会議「アクティベーションツール OOH」:マンガの世界を同じ空間で再現(2021年6月号)/街そのものをメディアに(2024年10月号)
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