Oh! OOH!!は街なかの広告を紹介するサイトです。その姉妹のような存在として、街なかのパブリックアートを紹介する「@ART(アット・アート)」も2012年から運営しています。広告とアートは別の世界のものとして語られがちですが、どちらも駅や広場といった公共空間で、行き交う人の目に触れるという点では同じ場所に立っています。
2021年にnoteで@ARTを紹介した際、「このパブリックアート自体も有用なOOHメディアとして機能させられるポテンシャルを持っている」と書きました。あれから5年、パブリックアートと広告の境界ではどんなことが起きてきたのか、事例から見ていきます。
衣装を着替えるナナちゃん
パブリックアートを広告媒体として使っている代表例が、名古屋駅前の「ナナちゃん人形」です。1973年に名鉄百貨店セブン館の開業1周年を記念して設置された、身長6m10cmのマネキン人形で、2012年からは企業や自治体への有料の貸し出しを始めています。2020年の報道では、使用料は1週間100万円(税別、衣装の制作費は別)でした。
企業の広告だけでなく、自治体の呼びかけにも使われています。2022年2月には「中村区は電子申告推進の…」と書かれたたすきをかけ、2024年6月には三菱マテリアルの金地金のPRで、金色のドレスに「金は守りの資産です」のたすき姿でした。


これまでに制作された衣装は、2023年9月の時点で630着を超えています。2025年7月には『鬼滅の刃』の竈門炭治郎の衣装を着て、劇場版の公開を盛り上げました。名鉄百貨店の本店は2026年2月に閉店しましたが、ナナちゃんは名古屋鉄道に移籍し、同じ場所で広告媒体として使われ続けています。建物がなくなっても、街のシンボルとしての価値は残ったといえます。
待ち合わせの像に衣装を着せる
同じように、駅の待ち合わせスポットになっている像も広告の舞台になってきました。2012年には、池袋駅の「いけふくろう」がビックカメラの店員のユニフォームを着ています。Oh! OOH!!で当時紹介した記事では、媒体の欄に「パブリックアート」と書きました。

2016年の年末には、渋谷のハチ公像がキリンの「ハードシードル」のマフラーとサンタ帽を身につけ、2021年にはいけふくろうが『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の使徒の面をかぶって「イケフクエル」になりました。見慣れた像がいつもと違う姿をしていると、通りがかった人は思わず足を止めます。像が長くその場所にあり、街の人に親しまれていることが、そのまま広告の力になっています。
清掃をブランドのPRに
少し違ったかたちの事例が、JR渋谷駅ハチ公口の壁画「ハチ公ファミリー」です。1990年に設置された信楽焼の陶板の壁画で、2018年9月、ジョンソンのキッチン用洗剤のブランドが、この壁画を設置以来初めて本格的に清掃しました。作品をきれいにすること自体がブランドのメッセージになり、企業のPRとパブリックアートの手入れを両立させた試みです。
清掃が始まった日の朝、ハチ公口では壁画が黄色い仮囲いで覆われ、「NOW CLEANING」の文字とブランドのロゴが掲げられていました。

ただ、この壁画は渋谷駅の再開発にともない、2025年に撤去が報じられました。陶板の解体と復元が難しく、移設ではなく撤去になったといいます。noteでは、パブリックアートの課題として「忘れ去られてしまう」「そもそも知られていない」「使われなくなってしまう」の3つを挙げました。街の風景は変わり続け、作品もいつまでもそこにあるとは限りません。
ニューヨークで見たアートと広告
2014年2月、休暇を使ってニューヨークのOOHとパブリックアートを見て回ったことがあります。地下鉄の駅にはさまざまなアート作品が常設されていて、駅のシンボルになっていました。ロイ・リキテンスタインの壁画の下では、アーティストが勝手にラップを始め、たくさんの人が集まっていました。


街なかでは、壁面をアーティストが使えるようにして、作品を定期的に入れ替える仕組みもありました。作品の前で記念写真を撮る人も多く、当時のレポートには「OOHとアートの結びつきが強いように感じられた」と書いています。


企業の関わり方も印象的でした。MoMAではユニクロの協賛で毎週金曜の夕方が無料開館になっていて、館内のサイネージには「THANK YOU UNIQLO」の文字が映っていました。作品に衣装を着せるのとは違い、アートに触れる機会そのものを企業が支えるかたちです。

広告の画面をアートの画面に
逆に、広告のための設備がアートの舞台になる事例もあります。2019年2月、渋谷のスクランブル交差点の大型ビジョンに、現代美術家ソフィ・カルの映像作品《Voir La Mer(海を見る)》が毎日深夜0時から1時間だけ映し出されました。販促会議でこの事例を取り上げた回のタイトルは「公共アートをOOHメディアに」です。
その延長にあるのが、イギリスの作家ジュリアン・オピーの《People 14.》です。高さ約2.4mの両面LEDディスプレイの中を、シンプルな線で描かれた人々が歩き続けます。GMOインターネットグループの熊谷正寿代表のコレクションで、2025年の大阪・関西万博で展示されたあと、東京・用賀のGMOインターネットTOWERに置かれています。


私も8月の夜に見に行きました。階段状の広場の底で作品が光り、その前を人々が通り過ぎていきます。LEDの中を歩く人と、画面の前を歩く人が重なって見える瞬間がありました。作品の銘板には、LEDディスプレイをアートの媒体として取り込むことで、作品は「行き交う人々をモニュメントに変えています」と書かれています。


駅や街頭で見かけるデジタルサイネージと、同じLEDの画面です。何を映すかで、その画面は広告にもアートにもなります。
使われる仕組みをつくる
こうして並べると、パブリックアートと広告の関係にはいくつものかたちがあることがわかります。像に衣装を着せる事例でも、壁画の清掃をPRにする事例でも、作品が長くその場所にあって、街の人に知られていることが前提になっています。
noteでは、先の3つの課題に対して@ARTが担いたい役割として「未来に遺したい」「知ってもらいたい」「使われる仕組みを作りたい」の3つを挙げました。広告として使われることは、作品が街の中で生き続けるための方法のひとつといえそうです。一方で、作品には作家がいて、込められた意図があります。作品や作家に価値がきちんと還元されるかたちで使われるなら、パブリックアートはOOHの新しい媒体になっていくのではないでしょうか。
参照元
- 平井健一郎 note「パブリックアートと@ART(前編)」「同(後編)」(2021年)
- 名古屋鉄道交通広告「ナナちゃんコレクション」
- Yahoo!ニュース エキスパート(大竹敏之)「衣替えは最速30分!名古屋のシンボル・ナナちゃん人形の舞台裏」(2020年10月8日)
- Oh! OOH!!「いけふくろう ビックカメラの店員に」(2012年6月)
- Oh! OOH!!「【コラム】ニューヨーク市のOOHとパブリックアートの事例」(2014年2月)
- @Press「渋谷のシンボル“ハチ公”と“家族”がキレイな姿でお目見え!」(2018年)
- Tokyo Art Beat「渋谷駅前の陶板壁画《ハチ公ファミリー》が撤去へ。駅の再開発に伴い」(2025年1月31日)
- GMOインターネットグループ「「大阪・関西万博」展示作品 ジュリアン・オピー「People 14.」 GMOインターネットTOWERで移設展示開始」
- 販促会議「アクティベーションツール OOH」:公共アートをOOHメディアに(2019年5月号)
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