OOHはなぜSNSで拡散されるのか?

新宿東口でクロス新宿ビジョンにスマホを向ける人たち(2021年7月撮影)

2024年に販促会議で「大奥」の事例を書いたとき、冒頭にこう書きました。「渾身の企画が、SNSではほとんど話題にならず閑古鳥に終わってしまうケースの方が多いだろう」。街で見かけた広告を、たまたま誰かがXで紹介してくれるとは限りません。

それでも、ときどき駅の広告の写真が何百万回も表示されます。何が違うのか気になって、以前Xで話題になったOOHを追いかけ、自分用のチェック項目を作ったことがあります。今回はその続きとして、直近1ヶ月(2026年8月23日から9月22日まで)にXに投稿されたOOHの投稿を探し、元投稿で数字を確認できたもののうち、よく拡がっていた6件を並べてみました。すべての投稿を集めたランキングではありません。

1か月で見つけた6件

数字は9月23日時点の表示です。表示回数は投稿が表示された回数で、広告の前を通った人数ではありません。

投稿投稿日いいねリポスト表示回数
一般の人:『名探偵コナン』×鳥人間コンテストの広告8/3117万1.6万589万
King & Prince公式:渋谷の「So Honey EP」広告9/21.7万3,14042.4万
CHINTAI公式:梅田の大橋和也さんの広告8/243,04677212.8万
PLAYISM公式:『8番出口』の渋谷駅広告9/72,41169911.4万
スタンドマイヒーローズ公式:池袋駅の10周年広告8/312,30167317.7万
ポケモン情報局:ポケカ30周年の広告9/71,86422445.8万

1万いいねを超えたのは上の2件です。一方は一般の人の投稿、もう一方は公式の投稿で、拡がり方はかなり違いました。

一般の人の一言が589万回表示

いちばん大きく拡がったのは、渋谷駅の地下に出ていた、アニメ『名探偵コナン』放送30周年と鳥人間コンテストのコラボ広告の写真でした。琵琶湖の写真の横で、元太が「うわ〜!でっけぇ湖〜!」と叫んでいる広告です。投稿者はそこに「まずい。日本から琵琶湖が消える…………」とだけ書き添えました。

広告そのものは番組の告知です。ただ、作品を知っている人ほど、この一言の意味がわかって、何か言い足したくなります。拡がったのは広告の写真というより、「この広告をそう読むのか」という読み方のほうでした。

アドターミナルでSNSプランナーのふくままさひろ氏に話を聞いたとき、狙っていたのとは違う「大喜利」の投稿から火がついた事例を教えてもらいました。ふくま氏は、「感動する」「ツッコミを入れる」「ネタにする」など、人によって異なる感情のスイッチをクリエイティブの中に散りばめておくことが、拡散の確率を高めると話していました。コナンの広告にも、見た人がそれぞれの一言を足せる余白がありました。

2019年の販促会議で、OOHを「広告を見ている人を見られるメディア」と紹介したことがあります。テレビやネットの広告は、ほかの人がそれを見てどう反応したかまでは見えません。OOHは、広告の前で立ち止まる人や、写真を撮る人ごと目に入ります。Xでは、その「見ている人」の一言まで一緒に拡がっていきます。

もっとも、589万回の表示を「番組の告知が589万人に届いた」とまでは言い切れません。表示回数には同じ人が何度も見た分も入りますし、面白い一言に反応した人が、放送日時まで覚えたかどうかはこの数字からはわかりません。

公式が伝える「どこで、いつまで」

King & Princeの公式投稿は、渋谷スクランブルスクエアに「So Honey EP」の広告が出ていることと、掲出が9月6日までであることを伝え、Spotifyでの配信へ案内しています。

https://twitter.com/kp_official0523/status/2095106659328938334

ファンにとって、この投稿は新曲のニュースであると同時に、見に行ける場所と期限の情報です。現地に行った人が写真を撮り、また投稿する。公式の告知と、ファンの記録が行き来しながら拡がっていきます。

2023年にAmazon MusicとNiziUの事例を書いたとき、OOHはエリアが限られるからこそ、「ファンを通じて広告そのものをコンテンツとして拡げていく仕掛け」が必要だと書きました。場所と期間をはっきり伝えることは、その仕掛けのいちばん基本的な部分だと思います。CHINTAIや『スタンドマイヒーローズ』の公式投稿も、同じように場所と期間を伝える形でした。

呼びかけに応える人がいるか?

「見つけた人はリポストで教えてください」と公式が呼びかける投稿は、今回も見かけました。ただ、反応の大きさはさまざまです。

呼びかけが拡がるかどうかは、広告の出来だけでは決まりません。発売前の新商品のように、まだ応援してくれる人が集まっていない段階では、呼びかけに応える人自体が少ないからです。2024年の「大奥」では、長年のファンがいる作品で、プレゼントキャンペーンも組み合わせ、目標の8,888リポストを掲出初日の数時間で達成していました。呼びかける側と応える側が揃っていたわけです。

表示回数といいねの多さの順番が一致しないことも、今回よくわかりました。フォロワーの規模や、広告として配信されたかどうかで数字は大きく変わるので、投稿の数字だけで広告の良し悪しを比べることはできません。

2022年に作った5つのチェック項目

Xで話題になったOOHを見るときの項目を主に以下の5つに絞れます。

OOHがXで共有される理由を見る5つのチェック項目と、今回の事例。2022年に作ったメモを2026年の投稿で読み直した。右端は特定の施策ではなく一般的な例

1つ目は、撮りやすさ、つぶやきやすさ、わかりやすさ(ユーザビリティー)。2つ目は、行きやすく人が多い場所かどうか(アクセシビリティー)。3つ目は、反応を共有するファンがいるか(コミュニティー)。4つ目は、ツッコミどころや日常の中の違和感があるか(セレンディピティー)。5つ目は、公式が発表していて、安心して紹介できるか(オフィシャリティー)。

コナンの投稿は、コミュニティーとセレンディピティーが重なった例です。King & Princeは、コミュニティーとアクセシビリティーとオフィシャリティーが揃っていました。反対に、発売前の新商品の告知のように、公式の発表で場所もわかりやすいのにコミュニティーの部分がまだない場合は、呼びかけだけで拡げるのは難しくなります。

2022年のメモには「場所だと圧倒的に渋谷!」とも書いていました。今回の6件でも、コナン、King & Prince、『8番出口』の3件が渋谷です。4年経っても、この傾向はあまり変わっていないようです。

「バズったか」の次に見ること

2022年のメモには、「どんな人につぶやかれるかは運の要素が大きいが、ある程度コントロールできる」とも書いていました。公式が場所と期間を告知する、ファンとやりとりする、メディアに届ける。コナンの一言のような偶然はつくれませんが、偶然が起きたときに受け止められる準備はできます。

ただ、最近はSNSでの拡散を目的として語ることが少なくなりました。拡散は途中経過で、その先に誰に届き、何が動いたかがあります。589万回の表示のうち、どれだけの人が9月5日の放送を見たのか。渋谷に足を運んだファンが、そのあと何回曲を聴いたのか。アドターミナルで取材したNKBの佐藤剛氏も、これからの課題として「拡散された量の多さだけではなく、『どのような文脈で拡散されたか』」を問うことを挙げていました。Xの数字はOOHの面白さを教えてくれますが、答えまでは教えてくれません。そこを確かめにいくのが、次の宿題だと思っています。

参照元

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